「お芝居を選んだ、というか、気づいたらお芝居の世界にいる、という感じで」
ゆっくりと言葉を選びながらそう話すのは、羽沢葵さん。女優業を中心に、モデル・グラビアと活躍の幅を広げているタレントさんです。ミスFLASH2020オーディションではセミファイナルにも進出しました。
羽沢さんは実は2019年の4月に大学院を辞めたばかり。新たなステージに身を置いて一年経っていない、そんな時期にインタビューをお受け頂きました。
志を持って院に進んで、しかしその途中、本格的に芸能の道に進むことを決める。そこにはどんなお気持ちがあったのでしょうか。
そのお芝居・お仕事に対する並ならぬお気持ち、そしてそれを支えて下さるファンの皆さまへの思いをお伺いしました。
羽沢さんがお芝居を始めたきっかけは、中学の部活動紹介の時だったそう。
「でも、その部活紹介を見てどう思って入部に至ったのかは、全然覚えていないんです」
と、羽沢さん。
「覚えているのは、映像だけです。ぱっと、覚えている光景があります。多分5分くらいの短いステージだったはずですが、きっと、当時の私は感じることがあったのでしょうね」
ふふ、と笑いながら言葉を続けます。
「始まりがそういう形なせいか、それから現在まで、“お芝居をやろう”と明確に決意したのは最近に一度だけなんです。
その決意までは、お芝居を選んだというか、気づいたらお芝居の世界にいる、という感じで。“好き” っていうよりも、どうしても惹かれてしまって。お芝居がやめられなくて」
羽沢さんのお話では、中学から現在まで10年以上お芝居を続けているものの、「お芝居を続けるぞ!」という強い意識はなかったというのです。例えば大学入学時、演劇サークルも候補には上がりつつ、様々なサークル・部活を見ていたそう。また羽沢さんは最近まで、カウンセラーになるべく大学院に進んで、臨床心理学を学んでいました。
しかし、現在は大学院も辞め、芸事で身を立てる覚悟を決めています。この大学院を辞めた時が、先程の言葉の中にあった、「“お芝居をやろう”と明確に決意した」「一度だけ」の機会。
それは何がきっかけだったのでしょうか。
「カウンセラーと役者というのが、アプローチは違うけれど、よく似たものだと気づいたんです。
カウンセリングは主に心をゼロに戻す仕事、だなんてよく言います。心がマイナスに傾いている方と向き合って、ゼロに戻していく。
役者というのは見る人の心がどこにあっても、心にプラスワンする仕事だと考えています。臨床心理士は素晴らしい仕事です。でも同じ人の心に作用していくなら、私は誰かの人生に舞台の上から花を添えたい、と思いました。
……まあ、単純に大学院と役者業の両立が大変だった、という理由もあるんですが」
苦笑しながらそう語る羽沢さんですが、それはつまり、“大変な” 役者業を辞めてカウンセラーになることを、今は諦めたということ。羽沢さんは確かに役者という仕事を覚悟を持って選んだのです。
「お芝居には抗えないちからがあって、磁石のように惹きつけられるんです。きっとそれに夢中になっている人は私だけではありません」
そんな強い想いを持つ羽沢さんは、役作りにも独自の考えを持ちます。
「カウンセリングと役作りも、やはりとても似ているんです」
考えながらぽつりぽつりと、羽沢さんは確実に言葉を紡いでいきます。
「カウンセリングの場では、相手の話がどんなものでも否定してはいけなくて、もし理解できなかったら『それはどういうことなんですか?』と色んな手法で聞いて、受容していくんです。
それって、台本を読んだばかりの時、役に対して思わず『なんでその言葉が出るの?!』と思うけれど否定してはいけないのと似ています。様々な方法で役を理解して受け入れて『役と対峙する』ことは、私にとって眼の前に相手がいるという感覚が強いです」
また、その眼の前の人物や役柄を理解していく過程が楽しいと言います。
「プライベートでも、一対一で友人と話すことが多くて、よく『この話は葵にしかしたことない』と言われます。深層心理に触れる話を、人と話して一緒に噛み砕いて考えることが好きで、たぶん得意なんだと思います」
そこから、羽沢さんは舞台役者という仕事に対する想いも語ってくれました。
「ただ、役作りが楽しい、とか、これが嬉しいから役者をやっている、というのも少し違うんです。得られるものは沢山あるし、この瞬間が幸せ、というのもありますが、どちらかというと私は “舞台の上にいるだけで幸せ” なんです。
役者という仕事そのものが目的で、それ自体が好きで楽しくて、もはや好きとか楽しいとかそれすら思っていないというのが本当のところです」
それでは、お芝居をやっていて辛い時というのはないのでしょうか。そうお伺いすると、「もちろん、あります」とすぐに返ってきました。
「まず役がしっくりこない時です。それはかなりしんどいです。
役作りで目指しているのは、自分の中にある役と台本に書かれているセリフに矛盾や違和感を覚えず、自然にその役を生きれるようになることです。短く言うと『無理してないな』という感覚なんですが、自分の引き出しにない役だったりすると、それが難しくて。
更に自分の中で『無理してない』状態になっても、見ている方からはそう見えなかったりして、今度は『見せ方』で悩むこともあります」
辛さ、しんどさ、の話は舞台上以外にも及びました。
「自分の定めたハードルに対して、辛い、と感じることも多いです。
今、私は自分を成長させるために、わざと今の自分には厳しいと思うオーディションを受けるようにしています。集客力や、劇団さんの知名度、そもそも演じる内容などが、自分と釣り合っていない、と感じるものをあえて選んでいくんです。
もちろん本番までに釣り合わせるよう努力をするのですが、できない自分と直面するのは、やっぱりきついです」
そうして自分を追い込むようになったのは、大学院を辞めると決心してからだそう。
「大学院を辞めて芸能の世界に生きる、と決めるまでは、とにかくお芝居がやりたい、というのが先行してしまっていました。覚悟を決めてから、色々考えてやっていくようになりました」
またそこにはしっかりと、目標もありました。
「何かのタイトルを獲りたい、と思っています。ただ名前や肩書が欲しいというだけではなくて、タイトルもステージの数も自分の中身に伴って得られるだけだと思っているので、自分の成長を見るためにも。
そのためには、自分にハードルを課して、成長していくしかないんです」
最後に、羽沢さんからお花を贈って下さる方を含め、ファンの方全員への感謝の言葉をお預かりしました。
ちなみに今回は「普段、自分のポリシーとして言わないようにしているマイナスの言葉」をあえて本音として使って下さっているとのこと。感謝と共に、今回だけ身にまとう “タレント・羽沢葵” を脱いだ言葉を、お伝えさせて頂きます。
「私は正直タレントとしては不完全ですし、足りないところも、至らない部分も沢山あるとわかっています。
でも私を応援して、Twitterを見て、舞台に足を運んで、お花や差し入れを下さって、という皆さんに対して、軽々しく『こんな私を』と言うのは、違うのかなと思っています。だからいつもは応援して下さる皆さんへ、ただ『応援してくれてありがとう』と言っています。
でも本心としては、『不完全な私を応援して、私の背を押してくれてありがとう』と思っています。今だけはあえてそれを伝えさせてください。
『ファンの方無しでは私はやっていけません。こんな不完全な自分だけど、応援してくれて、背中押してくれて、本当にありがとう』」
紡ぐ言葉一つ一つが印象的で、ご自身の中にある答えの輪郭を、一つずつ確かめながら声にしていく、そんなどこか不思議な、独自の雰囲気を持っていらっしゃる方でした。
可愛らしい外見とその深く深く掘り下げていくような言葉のギャップに、スタッフは話し始めてすぐ、惹きつけられました。
ご友人と一対一で話すのが得意――そうインタビューの中でもお話頂きましたが、そのご様子を直に見せて頂いた思いです。一つのことを噛み砕き、羽沢さんだけの言葉に乗せる姿は、ずっと聞いていたくなるほどでした。
またそれは役作りや、演じる姿にも通じているはずで、舞台の上の羽沢さんを是非拝見したい、と本当に強く感じました。
また取材の後に、「実は話しながら感極まりそうになっていた」と明かしてくれた羽沢さん。そんな応援して下さる方への一層のお気持ちを、この記事からも、ファンの皆さまが感じ取って頂けたらいいな、と、インタビュー担当として思っています。
羽沢さん、この度はお忙しい中お時間頂きありがとうございました!
今後共、羽沢さんのご活躍、心より応援しております。是非今度、舞台を見に行かせて頂きます。
* * *
【今回インタビューさせて頂いた方:羽沢葵さん(@drama_kokone)】
次回出演予定は以下となります。
①2020年3月12日〜3月23日
東日本橋 A-Garageにて、エアースタジオ『GO,JET!GO!GO!vol.7』
※羽沢さんは“Cチーム”でご出演されます。
ご予約は下記URLより(チケット販売のカンフェティへ飛びます)
https://torioki.confetti-web.com/form/1131
②2020年4月29日〜5月5日
池袋シアターグリーンBOX in BOXにて、ぱすてるからっと『murderHolic×BOX in Box』
※2作品同時上演。羽沢さんは『murderHolic』へご出演されます。
詳細は下記Twitterより
https://twitter.com/pastelcarat/status/1230801651314806784
そのほかflesh専属モデルとして撮影会やイベント、そのほか配信など。
詳細はTwitterより御覧下さい⇒ @drama_kokone
【取材・執筆・撮影】Sakaseruアスカ
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