背が高く華奢で、小さな顔をマスクで隠したその女性は、声優の駒形友梨さん。ご挨拶をさせて頂くと、90度に近い角度で深くお辞儀をして下さいました。その様子は、真面目さと丁寧さを感じさせます。
駒形さんは、声優さんではありますが、歌手としていくつもCDを出しています。
お芝居と歌と、どちらに対しても同じくらいの情熱と、少し種類の違う想いとを持ちながら活動される駒形さん。
お花の話も交えながら、ファンの方へのお気持ちや、仕事への姿勢をお話して頂きました。
*
駒形さんが声優という職業を知ったのは小学生の時。声優・林原めぐみさんの歌声を聞いて、その姿に憧れるようになりました。
その時生まれた「声優さんになりたい」という言葉は当時、まだ重みを持たないものだったそう。ただ、駒形さんの中で、“声優”に対する気持ちはそれからずっと続いていきます。
中学に上がると、駒形さんは一層歌を好きになりました。カラオケに行っては6時間も歌い、高校入学後は人前で歌うようにもなりました。歌に力を入れていたこの頃の経験は、音楽活動を活発に行う今の駒形さんの下地になっています。
しかし、高校卒業後に入学した専門学校の声優科で、駒形さんはお芝居という壁にぶつかります。
「どうすればいいのかまったく掴めませんでした。講師の方に指導して頂けるのですが、人によってもやり方は違いますし、正解はない世界ですから」
歌も正解のない世界ではあるものの、と前置きした上で、駒形さんはお芝居ならではの難しさを話します。
「歌はまず音程とメロディがあって、仮に何の気持ちを込めなくても“歌う”という形にはできます。でもお芝居は読み方一つ、間のあけ方一つ、歌以上に選択肢が幅広いため、なかなか自信が持てませんでした。今でも歌と比べると、お芝居には苦手意識があるかもしれません」
駒形さんはご自身の演技を“ナチュラル”と称します。“アニメっぽい”演技よりも、普段するような、自然な喋り方で演じることが多いそうです。
「“アニメっぽく”ないから私の演技はダメなのかな、と悩んだこともあったんですが、その考えはやめました。今の自分ができる、一番いいものを届けながら、少しずつアップデートしていきたいです」
そんな駒形さんの声優としてのターニングポイントは、デビュー後早いタイミングでした。それは超人気コンテンツ、アイドルマスターシリーズへのご出演。現在も多くのメディアをまたがる大きなタイトルです。
アイドルマスターシリーズで特徴的なのは、キャラクターの声優さんが歌って踊る、ライブステージの数と規模。駒形さんも、2015年の初出演を機に、何度も大きなステージに立っています。
しかし2015年当時、駒形さんはダンスはおろか運動そのものが得意ではありませんでした。
「『ダンスなんて一ミリもできないよ』と、お芝居以上に自信がありませんでした。実際に、はじめの頃はカチカチで、全然できなくて……」
注目度の高いステージ、そして苦手なダンスに対する不安。自然と、自主練習の時間は増えていきました。
「でもそうして一生懸命続けていたら、できることが増えて、少しずつ好きになれたんです」
最近は運動そのものに対しても苦手意識が薄まっているそう。
「少し前、まったく別の企画で10キロ走ったのですが、意外に走れてしまいました。他に運動らしい運動もしていないので、ダンスレッスンで知らないうちに体力もついていたんですね」
お芝居に、ダンスに、運動。自信がない、と言いながらも、ひたむきな姿勢で駒形さんは成長していくのでした。
アイドルマスターシリーズに出演後も、実はしばらく、駒形さんは声優業とアルバイトを掛け持ちしていました。
そこで大きく駒形さんの生活を変えることになったのは、長らく続くアニメシリーズ『プリキュア』の主題歌に選ばれた時。そのタイミングには運命的なものも感じられたそうです。
「実はプリキュアの主題歌が決まる少し前に、アルバイト先の店舗がクローズすることが決まったんです。その時、一緒に声優志望で夢を追いかけていた友人に『それまでに声優だけで食べていけるようになろう!』と言ってもらって。不思議と、それが現実になりました」
それは駒形さんが25歳になる年のことでした。
――デビュー後すぐに、アイドルマスターという大きなコンテンツへの参画。そして努力の末、若くして確固たる実績を築いた駒形さんのキャリアは、とても順調に見えます。
しかしそこに至るには、苦悩の時間もありました。
「実は、自分の歌がわからなくなって、まる一年ほど歌えない時期がありました」
それはある歌の収録現場。『うまい下手だけではなくて、表現の部分を考えなければいけない』と、関係者の方から駒形さんは指摘を受けます。
「『表現ってなんだろう?』と。
それ以来、得意だったはずの歌がわからなくて、カラオケにすら行けなくなりました」
できないことがあるとご自分を責めることも多いという、真面目で責任感の強い駒形さんにとっては、歌えなくなるには十分の出来事だったのです。
でも、それではいけない――少しずつ、ご友人とともにカラオケに行って歌の楽しさを取り戻し、“自分なりの表現”を探し始めました。
そして人からの言葉で自信を失ったその日から、一年ほど経ったある時。キャラクターソングを収録する現場でのことです。
「私の歌を聞いて『こんな歌を歌ってくれる人がいるんだったら、俺ももっと仕事を頑張るよ』と褒めて下さった方がいたんです」
やはり他の方からの言葉で、駒形さんは自信を取り戻すことができました。
その時褒めてくれたスタッフの方は、後のプリキュア主題歌オーディションの関係スタッフさんでもありました。その方がオーディションの場にいることは知っていたので、多少、オーディションにも自信を持って臨めたのではないか――駒形さんはそう振り返ります。
「今は、こういう風に歌いたいからやっちゃおう、なんていう気持ちも少しずつ出てきたんですよ」
大好きで、得意だと感じていた歌でのつまずき。それを乗り越えた駒形さんは、歌に対する自信と自負を明確なものにしていきます。
ここまででも何度も登場した“自信”というものは、駒形さんにとって大きなテーマ。
ご本人曰く、駒形さんは“自信がなく“ネガティブ思考”なのだそうです。
「でも少しずつ自信を持てるようになってきているんですよ。
これはファンの皆さんのお陰です。ファンの方が、私以上に私のことを褒めてくれる、肯定してくれる。それで、前に比べたらずっと、自分の良いところを受け入れられるようになりました」
そんな大切なファンの皆様とは、最近はYouTubeチャンネルを通じ、今までとは別の形でコミュニケーションがとれているそう。
ファンの皆様と駒形さんとは、しばらく直接お会いする機会がありません。2020年7月現在、新型コロナウイルスの影響が続いているためです。それもあり、様々な方法でファンの方と交流を図ります。
「やっぱり皆さんと直接お話したいな、と、今も思っています。コロナの少し前はコンスタントにCDリリースをして、毎週のようにリリースイベントでファンの方とお会いしていましたから、それが一気に無くなると、すごく寂しいですね」
そんなファンの皆さまは、「良い人ばかり」と駒形さんは明るく言います。
「関係者の方から『駒形さんのファンなら大丈夫』と言って頂くこともあるんですよ。
例えばファンクラブイベントで、リアル脱出ゲームを開催した時、とても距離の近いイベントだったんです。スタッフさんから『危ないかなと思ったけれど、駒形さんのファンの方、優しいし穏やかだから大丈夫でしょう』とOKを頂いて実現しました。
実際、イベント途中に参加者の方とすれ違うこともあったんですが、その時も『声掛けちゃいけない!』という感じで見てないふりをしてくれたりとか。別に声かけてくれても大丈夫なのに。笑
優しい人、控えめな人、そしていい意味で愛が重い人が多くて。笑
本当にありがたいです」
ファンの方からの愛を感じるのは、どんな時でしょうか。
「そうですね……。例えば、全然ゲームとかやらなさそうな人が、私のゲーム配信に『駒形さんが楽しそうだから楽しい』とコメントしてくれている時とか。あ、これって愛だな、と思います。
あと愛というか、暖かさを感じたのは去年のワンマンライブの時でした。
直前まですごく緊張していて怖かったんですが、ステージに出た瞬間、ファンの皆さんも同じくらい緊張しているのが伝わってきました。笑
皆も緊張してくれているし、見守ってくれているんだから安心だと思いました」
お話はステージやイベントに贈られるお花についても。特にアイドルマスターなどのコンテンツでは、“フラスタ”や“楽屋花”という文化が盛んです。
「お花は愛を感じますし、すごく嬉しいです。私個人宛だったり、私キャラクターと二人宛てだったり、どちらにしても見かけるだけでほっと力が抜けるように感じます。
大きなステージの場合は実物を見れないこともあるのですが、マネージャーさんが撮ってくれる写真を見て、応援してくれている皆がいてくれていることにすごく安心できます」
ファンの皆様は駒形さんにとって、どんな存在なのでしょうか。
「なんというか、“親戚”に近いですね。笑
私は性格上『私は楽しいけど、これで大丈夫かな』と、よく不安になってしまいます。でももしちょっとでも良くない部分があったら、私をよく見てくれるファンの皆さんがきっと指摘してくれると思うんです。それがないうちは、大丈夫、と思える。
すごく信頼しています」
信頼する皆様へ、駒形さんからメッセージをお預かりしました。
駒形さんの言葉で、そのままお伝えします。
「今、様々な影響で直接お会いするのが難しいですけど、“またね”、という気持ちでいます。皆さんにお会いできる日が近々きっと来ると思って、次会った時、少しでも楽しんでもらえるようにします。
皆さんも楽しく健康で日々を過ごしてください」
取材のはじめから最後まで、真面目で丁寧、そしてちょっと控え目。そんな雰囲気が感じられる方でした。
しかし一方で、お話が進むとキュートで無邪気な表情も。特にファンの皆様とのエピソードを語る時の、嬉しそうに微笑むお顔が印象的でした。お顔立ちが大人っぽいからこそ、その可愛らしい表情が際立ちます。
本当にファンの方を信頼して、ファンの方から愛されている。表情一つで、それがものすごく伝わってきました。駒形さんを“愛する”ファンの方のお気持ちが、Sakaseruスタッフにもすごくよくわかったのです。
思わず「駒形さんは最高ですよ」と言いたくなる、控え目で自信なさげなその仕草。取材の最後にはSakaseruスタッフもすっかり駒形さんのファンでした。
今後とも、歌にお芝居、ダンス、そして更にその先へと、多くのご活躍をしてくださいませ…!Sakaseruからも、ぜひ応援させて頂きます。
この度はお忙しい中、お時間頂きありがとうございました!
【今回のインタビュー:駒形友梨さん】
【取材・執筆】Sakaseruアスカ
【写真】スペースクラフト・エージェンシー様ご提供
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